ホイホイと大金

最近「BSジャパン」から「BSテレ東」に名称を変えた局に、わしがときどきチャンネルを合わせる番組がある。
「ワタシが日本に住む理由」(月曜午後9時から放送)。
この番組名に、番組コンセプトが100パーセント表現されている・・・という親切な番組。

つまり、日本が好きで長く住んでて、日本語がぺらぺらで、日本人の国民性や風俗習慣もよく理解していて、お湯の中に放りこんだ氷のように日本に溶けこんでいる外国人。

そうした外国人の、日本における生活や生き方をカメラで紹介しながら、日本のどういうところが好きで日本に長く住んでいるのか・・・を訊くわけだ。
それによって、日本人には当たり前すぎて見えなくなっている日本の良いところや、魅力的なところを教えてもらう。

そして最後に、好きではあっもあえて日本にモノ申したいところも訊く。
日本を愛するがゆえに、こういうところは直してほしい・・・というところがあれば言ってください、というわけだ。

多くは1人1度の登場だ。ところが2度も3度も継続取材されて放映されているアメリカ人女性がいる。Pさんだ。
日本人男性と結婚して新潟の田舎に住み、子供が5人いる。
典型的な日本風の農家に居住し、小猛獣のように走りまわりじゃれあう子どもたちに囲まれて生活している。アメリカ人の顔立ちを除けば、ほとんど日本の田舎の農家のおばさんって感じ。それほど日本に馴染んでいる。

そのPさんが言う。
彼女が日本でいちばん不可解なのは “オレオレ詐欺” だと。
日本では、冬のインフルエンザみたいに猛威を振るっているが、アメリカでは(おそらくヨーロッパでも)、このような詐欺師はぜったいに営業不能、もしくは棲息不可能と断言する。

子や孫を名乗る人間から電話がかかってきて、やむをえず会社の金を使いこんだ、今日じゅうに返さないと馘になる、助けて・・・と訴えるだけで、ホイホイと大金を振り込む。・・・なんてことはアメリカでは、ヘビがカエルに頼まれて肩車してやるのと同じくらいありえない話だと言う。

2018年8月2日に警察庁が発表したところによると、当年上半期(1~6月)に発生した全国の「特殊詐欺」件数は、全体としては昨年の同時期より7.6%減ったが、身内などを装ういわゆる「オレオレ詐欺」は、22.7%増と大幅に増えて「深刻な状況」にあるという。

なぜ、こうした外国ではありえない詐欺事件が、日本では大手を振ってまかり通るのか。

くだんのPさんは話す。
アメリカでは、万に一つでもそんな電話を子や孫がしてきたとしても、そっぽを向くという。あなたは成人した大人なのだから自分で対処しなさい、自分がした失敗は自分の責任で乗り越えなさい、と言って突き放す。つまり「オレオレ詐欺」なんて商売がなりたつ土壌がない。

しかしもし日本でそういう対応をしたら、冷たい人間と思われる。もっといえば人でなしと言われる。さもなければ、あそこの家族は崩壊していると後ろ指をさされる。

こういう幼稚な受け取り方がされるのは、やはり「自由」についての理解が中途半端だからだろう。日本人の「自由」の未熟さについては、戦後教育の失敗だったとかなり前から言われるているのだが、少しも改まらない。

ついでにいえば対応が「冷たい」というのは、「愛情がない、もしくは足りない」と言っているのだが、「愛情」についての理解も中途半端だ。日本人の子や孫に対する愛情は、ほぼ自己愛の延長だと思う。でなければペット愛に近い。80年も人間をやっていると、それが透けて見える。

先ほど書いたPさんの5人の子どもたちは実に生き生きしている。あれをするな、これをしてはいけない、などといちいち言われないからだ。
人間が社会で生きていくうえに必要な基本的なこと以外は、いちいち子どもに介入しない。彼らの発達段階に応じてしたいことは自由にやらせる。そのかわり、その結果として痛い思いをしたり辛い場面に出遭ったりしても、かんたんに助けない。自分のシリは自分でフケというわけだ。

モノに対する考え方はさまざまだし、生き方は人によって違って当然だ。
それでいいのだが、わしは「自由と責任」は「バナナの実と皮」だと思っている。
「自由」という実を食べるには、「責任」という皮をむかなければならない。
皮をむかずに実だけ食べることはできない。
いやできるかもしれないが、それでは本来のバナナの味はしない。
つまりフェイクバナナを食べてるだけだ。

・・・てなこと言ってるけど、わしも日本人だということを忘れてた。
言ってることとやってることはたいてい別だからね、人間は・・・。