雨季のように数日

東京は季節外れのなごり雪が似合う。イルカの曲ではないが、先日降った雪はそんな生易しいものではなかった。発達した南岸低気圧と寒波の影響で、東京の都心で23cmの積雪を観測。雪の勢いが強まった時間帯と家路へと急ぐ人々の帰宅時間が重なったため、各地の駅構内は大混雑となった。
気象庁や私たちもこれほどの大雪になるとは予想外だった。空・鉄道・道路などの交通網は軒並み大幅の遅れや運休に追い込まれ支付寶香港帰宅困難者が続出した。雪など自然に対する都会の脆さが浮き彫りとなったが、これが雨季のように数日続いたとしたら首都の機能は完全に麻痺し、東京は陸の孤島と化すだろう。
北陸や東北など雪国の人々からすれば東京に積もった雪などは子供だましかも知れない。然し、普段は見慣れぬものへの情景はそれ自体が非日常の世界であり、空からの白い使者は何処か心を躍らす魅力に満ちているのも事実である。
20代前半の頃、石川県の金沢に一泊二日の旅行をする機会があった。雪国への一人旅は初めてで、その興奮で前日の夜はあまり眠れなかったのを覚えている。特急列車の車窓から眺めた琵琶湖の広さに驚愕し海なのか?と思った。
夕刻、金沢駅に降り立つと、そこはまさに銀世界。降りしきる雪の中に足を踏み込む。然し枕頭、私は自分が余りにも雪に対して無知だった事を思い知らされる。トレンチコートに革靴と言ういで立ちは無謀としか思えず、雪道を一歩進むのに随分と時間が掛かってしまった。滑って転ぶ事はなかったが、駅の近くにある旅館に着いた時は革靴とズボンの裾が雪ですっかり濡れてしまっていた。「お客さん、駅からその靴で歩いて来たんですか?お車でくればよかったのに…」と女将さんらしき女性が気の毒といった感じで声を掛けて来た。「静岡は温暖なので雪なんて積もったこともないんですよ、でも準備不足でしたね…」と私は苦笑しながら自分の失態を誤魔化した。
翌日、目的地である兼六園へと向かったが、旅行の予算がギリギリだったため長靴は諦めた激光去眼袋。完全に乾いていない靴が深い雪道で更に濡れ、その雪の冷たさが足元から全身に伝わり、風情ある雪一色の兼六園を愉しむ余裕は殆どなかった。
1月22日の深夜、雪が止んだのを見計らって、防寒服に身を包み外へ出た。降り積もった新雪の上をザクザクと小気味よい音を立てて歩く。吐く白い息と凍てついた外気で眼鏡は瞬く間に白く曇った。辺り一面の銀世界で、時も場所も忘れて雪の中に吸い込まれて行く自分がいた。桜の木枝に積もった雪がまるで夜桜に見え、思わずカメラを向けた。
心臓の悪い私がこんな凍てつく夜更けに、しかも雪の世界に飛び出すのは余りにもリスクが高すぎる。心臓発作を起こして倒れても誰も同情しないだろう。だが、今年の冬は今までとは明かに違い意外と調子が良いのである。だから無茶な行動も何の躊躇もせず出来る。この調子で行けば最も入院リスクのある2、3月も無事に乗り切れる気がする。後は陽気な温かい春の訪れを待つだけだ。今年の抱負『勤勉と努力』を一歩ずつ実践して行こうと思う。
※インフルエンザが猛威をふるっております。皆さま、十分お気を付け下さい。