再び駆けだした

幼児が転んだ。少し離れた場所で、母親が「がんばって!」と

笑顔で両手を広げている。幼児は立ち上がり、再び駆けだした。

抱きとめる母と、その胸に顔をうずめる子。公園で目にした光景だ。

 

大好きな母が、信じ、待ってくれている。

子が走った理由は、この一点に違いない。

周囲からの信頼は、人の生きる意欲や力を湧き立たせる源泉になる――それは、子どもも大人も、きっと同じであろう。

 

東京・八王子市の男子中等部員が 長距離競技を始めた理由は、

「僕の成長を喜ぶ親の笑顔が見たいから」。

その母親が先月、くも膜下出血で倒れた。

集中治療室で眠る母に、彼は誓った。「もう一度、母を笑顔にする」

 

彼は走った。朝な夕なに母の完治を祈り、練習に力を注いだ。

市の中学校陸上競技記録会では約80人中第2位に。父も広布に駆けた。

支えてくれる師と同志の温かさを伝えた友人が、「私も題目を送りたい」と入会を希望した。

家族の奮闘に、意識を取り戻した母は満面の笑みで応えた。

今、一般病棟に移り、順調な回復を見せている。

 

「私を、待っている人があるのだ」とは、

太宰治の名著『走れメロス』の主人公の叫びである。

自身が走る道のその先に、信頼する誰かの笑顔が待っている――

これを「希望」と呼ぶのだろう。