あなたの髪質なら

仕事帰りに美容室で髪を切ってきた。

「美容室」とは言っても、行きつけの980円カット(某チェーン店)なので気楽なものだ。
今日の出勤はIさんとOさんで、盤石の安心コンビ (笑)
実はこのお店、もう一人Sさんという方がいるのだが、このお方が「地雷オブ地雷」なのである。

どんな風に地雷かというと。。。
このSさんがカットすると、男性は桂文珍に、女性はワカメちゃんに仕上がってしまうのだ。

格安ながらも「理髪店」ではなく「美容室」を謳っている店舗で、アレはマジでヤバイ。
わたしも二度ほど当たってしまったのだが、二回とも「中途半端に髪が伸びた桂文珍」にされた。
これは誇張ではなく、大真面目な事実。

基本、物事をあまり気にしないわたしではあるが、さすがに「三度目は絶対に切らせない」と心に固く誓ったものだ。

それでも二名ぐらいの人員で回す小さな店舗。
二分の一ぐらいの確率で、Sさんが担当に当たってしまう。
だから順番待ちをしていて「Sさんに当たる」という確信が芽生えたら、急用を装って帰宅していた。

しかし毎回それでは時間が勿体ないし癪に障る。
そこで、ある日、別の作戦を考えた。
声をかけられそうになったタイミングで「電話をかけなければいけないので少し離席します」と、店舗から一時退出したのだ。

ファッションに敏感そうな、うら若き女性に順番が回ってしまった。
若干の罪悪感を感じながらも、電話を終えて店舗に再入室する。

程なくして自分の順番となったので、通りすがりに先ほどの女性を横目で眺めて絶句した。

――誰がどう見てもワカメちゃんです、ハイ。
彼女は泣きそうな声で「あの・・・。これ・・・短い。」と抗議していた。

当のSさんは、まったく動じない。
「あらー、そんなことないわよー。あなたの髪質なら、これ位の長さが一番なのよー♪」と、さらりと返す。

彼女は消え入りそうな声で「いや、でも・・・」と呟いたきり、黙り込んでしまった。
意気消沈した表情と対照的に、激しく自己主張する陽気なワカメちゃんヘアーが実にアンマッチ。

――やべぇ、心が罪悪感で押し潰される (割とマジで。汗)
同時に、彼女がその店舗に来ることは二度とないだろうな、と思った。

それ以来わたしは、Sさんが当たったとしても「いつもOさん(いないときはIさん)に切ってもらっているので、待たせてください」と、にこやかに答えることにしている。